アナ雪マルチリンガル版の一石から、マルチ方言版へと広がる「ことば」の波紋についての考察

いやぁ、アメリカにいても日本にいても耳にしない日はないのではないかと思われ、文字通り山羊も杓子も歌っている「Let It Go〜ありのままで〜」なんですが、ディズニーが上記の25カ国語バージョンを公開した頃から私も釣られ、最近になっていろんな方言バージョンが出て来るようになってからは、とても楽しく聴いております(映画は観てないけど)。これまでのディズニー映画の曲からは、これほどまでの勢いで方言バージョンが生まれなかったことを考えれば、やはりこれは最初にマルチリンガル・バージョンという一石が投げられたからこそ広がった「ことば」の波紋のように思えてなりません。元々は単なるマーケティング戦略に過ぎなかったのでしょうが、それが「博多が危機なんよ♪」に行き着くとは、ディズニーにも想定外だったことでしょう。これまでも、映画を公開する国向けに多くの吹き替えバージョンを作っていたディズニーですが、それらを1つの歌に詰め込むという作戦は、これまでにありそうでなかったもの。これも、英語帝国主義的だったアメリカが「これからの時代はマルチリンガルで行かなきゃ」って、やっと悟りつつある変化の現われかな?(←なにげに上から目線)

何はともあれ、このマルチリンガル・バージョンはおおむね世界中で好意的に受け止められ(反感も買ったようですが、それについては後ほど)、これをきっかけに「○○語バージョン、いいね!」みたいなやりとりが国を超えてなされるようになり、さらに日本では古今東西の方言バージョンが愛でられるまでになって、興行面のみならず社会言語学的にも大きな影響を及ぼしたのでありました。きっと、美味しい多言語サンプラーを味わった聞き手達が、「じゃあ、この中に入ってない私の母国語でも歌っちゃおう!」「私はもっと身近な○○弁で!」と能動的に発信する側になったのですね。これがインターネットを通して加速度的に広まっている、と。では、この「ことば」の波紋の広がりを更にいろんな角度から見てみましょう♪

まず、日本語ではEDAMAMEさんによる前述の博多弁バージョンを皮切りに、青森弁岩手弁宮城弁群馬弁甲州弁小松弁大阪弁広島弁京都弁沖縄弁、と方言バージョンがYouTubeなどの動画サイトに次々とアップされて話題を呼んでいますね(曲はレリゴーだけじゃないけど)。方言ではないですが、古文バージョングーグル訳バージョンまであって、ウケるんですけど!替え歌なんかも見始めれば、もうきりがありません。さて、これは他の国でも起こっている現象なのか?とググってみたところ、中国語も方言が豊富なせいか、かなり釣れました。その中で26方言をまとめたバージョンが、こちらです。

聴いてみると、言葉は全くわからないけど、歌ってる人の声質がバラバラなため、「確かにそれぞれ違うな〜」って感じ(笑)。中国人の皆さんのウケはいいみたいで、「笑死」なんてコメントもあります。いやぁ、わかるものなら、わかりたい!

意外にも英語は少ないです。あれだけ英語圏が広く、”Englishes”と言われるくらい英語の方言も豊富なのにねぇ。Britain’s Got Talentの出場者によるレリゴーはイギリス訛りが少〜し聞こえましたよ(←歌唱力が素晴らしいので聴く価値はあり)。しかし、英語の方言バージョンももっといろいろと作れそうなものなのに・・・ニュージーランド版とかオージー版とか南部訛り版とか、エボニクス(黒人英語)版とか、古くはシェイクスピア英語版とか。ラップなら原型を留めているのは、これぐらいかな。他にも幾つかありましたけど、その多くは歌詞も曲もオリジナルから変わりすぎているので、方言バージョンというよりは別ジャンルですかね。(方言じゃないけど、ディズニーキャラクター・バージョンならあった!)いや、よく探せば英語方言もいろいろあるかもしれませんが、日本の方言版のようにはサクサク出てきませんね〜。もし見つけた方がいましたら、ぜひ教えてください!

それから実は、前述のマルチリンガル・バージョンにも方言版がちょこっと入ってました!前述の中国語は北京語広東語のみ。フランス語はフランスのフランス語版カナダのフランス語、これは両方とも同じ歌手が歌っており、コメント欄に「この人カナダ人じゃないし、発音もカナダのフランス語とはちょっと違うね」なんて書かれてましたが。スペイン語は南米で使われるラテン系スペイン語版標準スペイン語版、そして非公式ですが欧州スペイン語版もありました。これらのスペイン語バージョンは歌詞も少し違うそうです。しかも、25カ国語バージョンの歌詞をフルで言語に詳しい人が聴くと、やはりどれも英語の直訳ではなく、それぞれのお国柄に合わせているらしいんですよ。フランス語のキーワードは「自由」と「力」、またドイツ語は「存在」、中国語は「霊魂」などなど。こりゃ、たまげたわ!「日本語バージョンは湿っぽい」とか酷評されてましたが、確かに日本語訳はかなり意訳だと前から思っていたんですよね。アニメの口の動きに合わせるためとはいえ、4回も「自分」という言葉が使われているうち、最後の3回は口元が殆ど見えていないんですから。まぁ、「自分を好きになって」とか「ありのままで」って最近の日本人の好きそうなフレーズですもんね。その代わりといいますか、英語版の「もういい子ちゃんだった私はいない」「ルールには縛られない」「人になんと言われても構わない」というフレーズは消えています。まぁ、日本語の歌は一音につき一音節しか乗せられないので情報量が減るのは仕方ないですが、やはり日本的でない箇所が削られてるような・・・これはこれで、口の動きにも、一般日本人のメンタリティーにもばっちり合っていて、すごいんですけどね。それから、25カ国語バージョンを見直してみると、どの言語でもアニメの口の動きとほぼ合っていて、ディズニー翻訳隊の気合いの入れようはただもんじゃないとわかります!(↓の動画を見ると、よくわかる)

方言バージョンについて語るはずが、ちょっと脱線しちゃいましたが・・・では、なぜ他の言語に比べて、日本語の方言バージョンはこんなに多種多様で面白いんでしょうか?(中国語方言バージョンも豊富で面白そうですが。)実は、この日本語方言バージョンについて紹介している英文記事があるんです。そこでは、「日本の方言っていうのはアクセントやイントネーションの違いだけじゃなく、語彙や構造までもが違っていて、同じ国の人同士でも通じないくらい違う」とちゃんと説明があります。また、「『生まれて初めて(リプライズ)』の曲が方言バージョンに多用されているのは、2人の姉妹の掛け合いが方言の特徴を自然に表すのに相応しいため」というごもっともな分析までされていました。この楽曲には歌っていない台詞の部分も多い、っていうのもあるかと思います。訛りのイントネーションは歌のメロディーにのせずに喋ったほうが、方言独特の音の高低が出せますもんね。最初はカナダ、そしてアメリカの西部、中西部、そして南部へと移り住み、アフリカのザンビア(英語が公用語)にも住んだこともあり、様々な英語の方言を耳にしてきた私ですが、英語の方言を大きく特徴づけるのはイントネーションの違いだと感じます。もちろん英語でも、アメリカ英語とイギリス英語のように語彙や文法的な違いもあり、地方によって変わった言葉遣いをすることもありますが、日本語方言ほど言葉遣いや単語がが変わる、ということはない気がします。イントネーションの違いがメインの英語方言では、歌うとイントネーションの違いがあまり分からなくなるので、アナ雪の方言バージョンが日本ほどは出ていないのではないでしょうか。(イギリス訛りを出そうとするあまり、殆ど歌わずにしゃべっているのが、コレです。)ちなみに中国語の北京語バージョンの一行目は「白雪发亮今夜铺满山上」、広東語では「寒風冰山 將心窩都冷凍」と、イントネーションだけでなく使われている漢字そのものが全然違います。どおりで「レリゴー♪」の中国語方言バージョンも多いわけですね。しかし、なんでこんなに全然違う漢字になるのか、気になります・・・

方言学に詳しい方には当たり前のことかもしれませんが、イントネーション以外の要素で日本語の方言を豊かにするのは、文末ではないでしょうか?方言だけでなく、男言葉と女言葉、丁寧語とくだけた話し方、年寄り言葉と若者言葉など、話し手の違いは文末に顕著に現れます。その反面、英語は構造上、文末に特徴が現れることは殆どありません。敢えて言えば、アメリカで文末につける”huh?”が、カナダでは”eh?”になるとか、アメリカ英語の文末で同意を求める”isn’t it?” “doesn’t it?” “isn’t he?” “isn’t she?”などが、アフリカ英語では主語が何であろうと全部”isn’t it?”になるくらいでしょうか。日本語の文末はだいたいが動詞ですが、動詞の活用が方言によってものすごく変わります。例えば、「〜です」という文末を「生まれて初めて(リプライズ)」の方言版で比較してみると、

「私は大丈夫だすけ」(青森)
「うちは大丈夫やけん」(福岡)
「私は大丈夫っつこん」(山梨)
「私大丈夫やわいね」(石川)
「あたしは大丈夫やよ」(京都)
「我ねーぬーんあらん」(沖縄)

「大丈夫」以外、ほとんど違うやんけ!・・・と、思わず訛ってしまうほど。(沖縄弁に至っては、大丈夫とさえ言ってない)それから、接続詞のような小さな単語でも日本語の方言は多種多様です。英語では”but / I know”のような単純なやり取りでさえ、同曲で比べると、

「ばってん/いいと」(博多)
「したって/いいすけ」(青森)
「ほぉだけんど/良いっつこん」(山梨)
「そやけど/いいげん」(石川)
「けど/ええねん」(大阪)
「やて/ええん」(京都)
「やしが/しむん」(沖縄)

と、かなり違います。いや〜、英語圏じゃどこ行ったって”but”は”but”ですからね〜。(厳密に言うとアフリカ英語の語尾には、ちっちゃい「ぃ」がつくことが多いので、”butti”(バティ)みたいになりますが、それは「訛り」の範囲で日本語のように言葉自体ちがう!というわけではありません。)とにかく、アナ雪の日本語方言バージョンにはそれぞれの方言の特色が強く出ていて、改行するたびに独特の言葉遣いがこれでもか!と繰り出されてくるのです。こんなにも表現豊かな方言を持つ言語って、他にあるんでしょうか?(中国語かな?)知ってる方は教えてくださ〜い!

ところがどっこい、忘れてはならない言語がありました!手話です。ご存知でしたか?アメリカ人は手話パフォーマンス大好き国民なんです。(単にパフォーマンス好きとも言える)アメリカでは手話は聴覚障害者だけのものでなく、多くの健常者が曲をバックに手話パフォーマンスをしています。そこで、もしや・・・と思って、”Let It Go”と”sign language”(手話)で検索すると、これが出るわ出るわ!英語では方言バージョンが少ない分、ASL (American Sign Language) によるFrozen劇中歌の動画が半端なく多いです!Tutorialという手話指導版まで作ってる人もいます。やっぱ、アメリカ人はパフォーマンス好きなのね(笑)。 その中でも正統派なのがこちら。手の動きの流れがキレイで、上手にまとめています。

こちらは、「女子大生がキャンパスでやってみました」風。雪吹雪が飛んできたり、背景が変わったりとけっこう凝ってますよ。「少しも寒くないわ」のところがカンジ出てます。

イギリス英語手話バージョン(BSL)も幾つかあり、「アメリカ手話とは結構ちがうのね」というコメントもあることから、英語手話の間でも方言があることがわかります。これらの手話バージョンを比べてみると、同じ英語の歌詞を元にしていても、演者次第でかなり表現方法が違いますね。”Let it go~♪”の部分なんか、同じ人でもやるたびに表現が変わっていますし。どの辺がお国の違いで、どの辺が個性の違いなのかは分かりませんが・・・とにかく、英語のレリゴーも手話ならば表現の幅が広く、動画も多いと知って一安心です!(なにが安心なのかはナゾ)肝心な日本語の手話バージョンはというと・・・たった1つですが、見つけました!しかも「子育てに役立つ手話」らしいですので、どの辺りが役に立つのか考えながら、見てみましょう。

こちらも、かなり伝わってくるものがありますね。(どうやって子育てに役立てるのかは分かりませんでしたがw)しかし、こういった音楽に合わせた手話パフォーマンスを見ていると、それらは音が聞こえる健聴者が作った気もしますし、日本では「手話歌は聴覚障害者を拒絶している」という批判もあるようです。視聴障碍者の方々がこのような手話パフォをどう思われるかは分かりませんが、私は他の方言バージョンと同じように、またそれ以上に手話バージョンも楽しませて頂きました☆ 視覚的に理解できる手話って、素晴らしいですよね。

さて、このように様々な「ことば」へと広がるきっかけとなったレリゴーのマルチリンガル・バージョンですが、世界中の皆さんが温かく受け入れた訳でもないようです。何かについて分析する時、「そこにないもの」に気付くのは重要なことなんですが、「○○語がない!」「なぜ○○語はないのか?」という声も多くあがっています。そこにディズニーのマーケティング意識が垣間見えると指摘しているブログもありました。方言であるカナダ・フランス語や、ラテン・スペイン語のバージョンはあるのに、なんでアフリカ言語やアラビア言語のバージョンがないのか!とお怒りの声多数。全ての言語を含めるのは無理とはいえ、確かに人口的にも言語的にも決して少数派ではないアフリカ大陸と中東部がすっとばされているのは、おかしいですよね。ディズニーはこれから公開する映画にもマルチリンガル版を作り続けていくのか、今度はどの言語が選ばれて、どの言語が消えるのか・・・なんてこと考え出すと、その理由を深読みしちゃって今回のように無邪気に楽しめなくなりそうですけど・・・でも、「なければ作りゃいい!」の精神でいきましょう♪それでは、公式バージョンにはなかったスワヒリ語バージョンアラビア語バージョンベンガル語バージョン、そしてモンゴル語バージョンをお楽しみください。それから、アフリカ言語でメロディーが歌われているわけではないですが、アフリカン・テイストのバージョンも話題になっていましたね。

ここまでするなら、メインボーカルもアフリカ人で、メロディーもアフリカ言語で歌えば良かったのに、なんて思ってしまいますけど。実際、アフリカって方言が豊富なんですよ。ザンビアだけでも、70種類以上ありましたから。きっとアフリカ人によるアフリカ言語のアカペラ・バージョンなんてかっこいいと思うんですけどね〜。(実際、”Let It Go”と”Acapella”で検索すれば、いろいろ出てきます)

長くなりましたが、最後に方言愛に溢れる石川啄木の短歌をご紹介します。
「ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく」
それでは、この短歌をもじって、今回の方言考察を終わらせて頂きます。
「それぞれの訛いとおし ようつべのアナ雪の歌を聴きにクリック」
お粗末でした〜(汗)

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